Uberは4.8兆円の価値があるのか?

お騒がせスタートアップのUberが昨年12月に$41bn(約4.8兆円)の評価額$1.2bnを調達しました。それだけでも十分に驚きなのですが、その1ヶ月後にさらに$600 mn(エクイティ)と$1.6 bn(転換社債)を調達したと聞き、もう完全に異次元の領域に入っています。

Uberは2009年の創業以来、エクイティで$3.3bn、デッドも含めると$4.9bnを調達しており、その調達規模はFacebook(上場前に$2.4bn調達)やAlibaba(同$2.7bn)でさえ大きく上回っています。

また、4.8兆円という時価総額は、自動車メーカーでいうとすでに世界9位の地位で、テスラ(3兆円)はもちろん日産(4.7兆円)でさえ抜き去ってしまっています。(もちろんUberはメーカーとは異なるビジネスモデルですが)

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Source: SPEEDA

Apple(78兆円)、google(42兆円)、Facebook(25兆円)といったインターネットの巨人にはまだ追いつかないものの、創業5年ちょっとでここまで伸びたのは驚異的です。

しかし、果たして本当にそんな価値があるのでしょうか?

4.8兆円の妥当性はあるのか?

公開情報のみでUberの価値を試算してみたいと思います。

まず、昨年11月にリークした(させた?)情報によると、Uberの総売上高(流通総額)は2015年末に$10bnに達しているだろうという予想が出ています。また、このときの成長率は年間300%と予想されています。

Uberは総売上高の20-25%を手数料としてドライバーから徴収しており、これがUberの売上高になります(2015年末には$2-2.5bn)。よって、$41bnの評価額は、Forward PSR(株価売上高倍率)の16-20倍です。FacebookのForward PSRが12.6倍、Twitterが11.2倍、Tencentが10.5倍なので、Uberの16-20倍は少し高めと言えます。しかし、年率300%成長しているのであれば、十分あり得る数字だと言えます。(財務データは全てSpeeda

また、この推計の前提となっている総売上$10bnと成長率300%という数字ですが、これも現実的な数字だと思います。CEO Travis Kalanick氏によると、UberはSan Franciscoだけで既に$500 mnの総売上を叩き出しているようですので、すでに250都市に展開していることを踏まえると今年末までにその20倍の数字は十分に可能だと思います。また、成長率300%に関しても、San Franciscoが年率3x、New Yorkが4X、Londonが5-6Xで成長しているというデータがありますので、これも有り得る数字でしょう。

非常にざっくりした試算ですが、売上や成長率を踏まえると4.8兆円の時価総額には妥当性があると言えます。また、投資家は優先株式で投資しているでしょうから、リスクはある程度抑えられているはずです。

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Uber CEOは将来は全て自動運転車に変えると公言

これほどの大型資金調達を支えるUberの成長ストーリーはどんなものでしょうか?

短期的にはUberのターゲットは世界のタクシー市場という巨大なものです。タクシー市場は、日本1.7兆円(Speeda)、アメリカ$11 bn(1.3兆円)、イギリス£9bn(1.6兆円)もあります。世界市場のデータが見つからなかったのですが、これら3ヶ国が世界に占めるGDPから推計すると、世界では約12兆円の規模になります。Uberはまさにこの市場を取るべく、すでに50カ国259都市に進出しています。

しかし、長期的にはUberの狙いはタクシー市場の置き換えに留まりません。本当の狙いは、都市部におけるヒトとモノの移動の全てを握ることだと思います。そしてそれを可能にするのが、現在開発が進められている自動運転技術です。

自動運転技術は今後5-6年で本格的に普及し始めるようになるはずです。TeslaのCEO Elon Musk氏は、Teslaは2015年には走行距離の90%を自動運転で走れるようになると発言しています。Google Carはすでに100万マイル以上を無事故で走行した実績を持っています。懸念されていた法律面でも進捗があり、昨年9月にはAudiがカリフォルニアの公道で自動運転車をテスト走行する許可を世界で初めて得ました。2020年には1000万台の完全自動運転車が販売されるというデータもあり、自動運転技術は遂に現実のものになりつつあります。

自動運転車が実用化された暁には、Uberを全て自動運転車に置き換えるとUber CEO Kalanik氏は公言しています。コロンビア大学の分析によると、マンハッタンのタクシー需要は9000台の自動運手車で全て賄うことができ(現在の1.3万台の約2/3)、そのときの平均待ち時間は現在の5分から36秒に、費用は現在の$4/mileから$0.5/mileになると予想されています。自動運技術により、Uberは今よりも便利に安価に移動手段を提供することができるようになります。

圧倒的な利便性とコストメリットにより、ほとんど全ての移動はUberを使うことになるでしょう。Uber網が発達している都市部においては、自家用車が不要になり、公共機関のニーズも激減するはずです。また、Uberが香港で実験している宅配サービスを本格的に展開してくると、既存の宅配サービスも置き換えてしまうかもしれません。

ここまで来るとUberの破壊的イノベーションはタクシー業界に留まらず、完成車、自動車保険、公共機関、宅配市場、駐車場、オートローン、修理工場、中古車など多岐に及びます。もちろんすべてを置き換えるわけではないですが、寡占を築いたUberが利益の大半を持っていくというシナリオは有り得ると思います。

Uberが次々と大型調達を決めている背景にはそんな成長ストーリーがあるのだと考えています。

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Google Glassは本当に失敗だったのか?

Google Glassの販売停止の発表は、多くの驚きや疑問の声を生みました。多くのメディアは「Google Glassは失敗した」と報じ、ForbesはGoogle Glass追悼文を掲載しました。今回のGoogle Glass販売停止と今後の展開について、私なりの考えを整理してみたいと思います。

そもそもGoogle Glassは失敗ではない

私は今回の販売停止はGoogle Glassの失敗を意味しているわけではないと思っています。むしろ、「お役目終了」といったところではないでしょうか?

2012年のGoogle I/OでSergei BrinがGoogle Glassを披露してから、2013年4月のExplorer Programの開始、さらには2014年5月に一般販売開始に至るまで、Google Glassはウェアラブルデバイスの代表格ともいえる存在を担ってきました。

一方で、一般消費者から「かっこ悪い」「実用性がない」と不満の声も多く出たり、Google Glass用のアプリを作るデベロッパーが開発を止めたりして、滑り出しに非常に苦労していたように見受けられました。マス層への普及という観点からは確かに「失敗」だったのかもしれません。

しかし私は、2年間に及ぶGoogle Glass販売の目的は、壮大なベータテストだったと捉えています。これは1台US$1500という決してマス向けではない価格設定を見ても明らかです。そして、その観点では非常に成功したプログラムでした。ベータ版のプロダクトで多くの注目を集め、数十万人といわれるテスターを募集し、さらにはテスターからおカネをもらうというオープン型のベータテストは大成功と言えるのではないでしょうか。

そして、Explorer Program開始からの2年間で蓄積された数多くのフィードバックは、iPodの生み親であり、新たにGoogle Glass事業をリードすることになったTony Fadell氏(現Nest CEO、$3.2 billionでGoogleが買収)の元で活かされ、近い将来に新商品 Google Glass 2.0が発表されるのではないかと思います。早ければ今年6月のGoogle I/Oにて発表されることを期待しています。

Google Glass 1.0からレッスン

では、2年間に及ぶGoogle GlassのベータテストでGoogleは何を学んだのでしょうか?私自身も1週間Google Glassとともに生活した経験から、レッスンと思われるものを挙げてみました。今となっては当たり前に聞こえるものもあるかもしれませんが、2年前に完璧に予見することは難しかったと思います。

ウェラブルデバイスはファッション Google Glassはいかにもギークが好みそうなデザインでとにかくカッコ悪いものでした。私もボストンで着用していましたが、街を歩くのすら恥ずかしいくらいで、それを常時着用するのは相当な心理的ハードルがありました。テクノロジー業界では見た目よりスペックや実用性を重要視してしまいがちですが、ウェアラブルデバイスはそれ自体が装飾品になるようなデザイン性が求められていると思います。スマートウォッチにおいても、全く同じ経路を辿っています。

キラーアプリは必須 Google Glassはとにかく実用性が薄いものでした。メールを読むには画面が小さすぎて、通話をするには聞き取りにくい。写真や動画を撮ることにおいては携帯電話より便利でしたが、それは比較論の域を出ていませんでした。Emailがインターネットのキラーアプリになったように、Google Glassを使うことによる圧倒的な価値を提供できないと普及は難しいと思います。

洗練されたUI/UX Google Glassでのメニュー選択するには、OK Glassと呼びだしてから、ボイスコマンドで起動させるか、首を上下に振ってスクロールしながら選択する必要がありました。これは傍目に見ると完全に変質者です。予測技術を使って自動的に起動させたり、目の動きでスクロールするなど、もうちょっと人前や静かな場所でも使いやすいUI/UXが必要でしょう。

深刻なプライバシー問題 他人の前で許可なくGoogle Glassを着用することが非難され、勝手に撮影されることを恐れた人々から”GLASShole”という言葉を生み出されました。Google Glassを使ったハンズフリー撮影・録画はキラーアプリとなり得るので、カメラ機能を無くすことはあり得ないと思いますが、よりプライバシーに配慮した設計が求めらています。(次バージョンでは、撮影中に赤いライトが光るようになる、というもあります)

価格にシビア $1500は高すぎました。もちろんベータテストなのでそこまで安くする必要が無かっただけだと思いますが、Fitbit($50-100)やスマートウォッチ($100-300)など、マス普及を狙うにはもっと価格を下げる必要がありそうです。今年のCESでは、中国メーカーから$300程度のGoogle Glass類似品が展示されていたようなので(Cool Glass ONE)、コスト構造的には十分可能だと思います。

Google Glass 2.0に向けて

Google Glass 2.0のローンチがいつになるのか分かりませんが、おそらく先ずは商業利用から攻めてくると思います。これはIoT全体の傾向ですが、光熱費を削減する(Nest)、自動車保険を削減する(MetroMile)、ホームセキュリティを安価に導入する(QuirkyDropcam)など経済的メリットを訴求しないと、「便利」だけでは訴求力が弱いようです。

Google Glass 1.0は、マス向けは普及しなかったものの、病院で医師の診察に使われたり(Augmedix)、警察による顔認識技術として使われたり(Dubai Police)、倉庫の商品管理に使われたり(Active Ants)、一定のビジネスユースにおいては実用性が認められました。ベータテストで特定した領域について、Google Glass 2.0は本格展開してくると思います。

また、今後興味深いのがAR(拡張現実)の組み込みです。Google Glassを通じて見ることで、目の前にある現実にデジタル情報を被せることができるようになるはずです。外国語の看板を翻訳して表示させたり、道を眺めると地図と経路が表示されたり、モノを眺めるとネット上の価格や類似商品が表示されたり、目の前にいる人のプロフィールを表示させたり。GoogleがAR/VRの先端技術を持つMagic LeapにUS$542M投資したのも、Google Glassへの応用を考えているのだと思います。前述のキラーアプリもこの辺から出てきそうな予感がします。

もともとGoogleはデータ企業であり、ハードウェア企業ではないことから、Google GlassについてもOSや生態系を狙うための先兵隊という位置付けだと思います。最終的には携帯電話と同様にAndroid OSをばら撒いて、ハードは多数の企業に作ってもらうことで、生態系の覇権を握ろうとしているのではないでしょうか。Google GlassはGoogle Xを「卒業」して、独立した事業部になるという報道もありますが、iPodとNestという新しいプロダクトを成功させたTony Fadellが次にGoogle Glassをどのような形で進化させるのか大変楽しみです。

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IoTが加速させるデータへの食欲

前回はAI(人工知能)について書きましたが、AIはアルゴリズムでしかなく、それだけでは何の意味も成しません。元となるデータを集め、それをAIを活用して分析することで、はじめて新たな発見を導き出せます。

そのデータ取得の追い風となっているのがIoTです。今後、IoTが進み、様々なデータを取得できるようになることで、AIを活用した分析もより効果的なものになるでしょう。

データ (IoT) x アルゴリズム (AI) = アウトプット (新しい発見)

一方で、政府や企業によるデータへの「食欲」は、個人情報保護の観点から大きな懸念が上がっています。2014年はプライバシー問題を露呈させた象徴的な年になりましたし、政府であれ民間企業であれ、個人情報問題を無視して未来を語ることはできなくなっています。

今回は、そんな飽くなきデータへの食欲について、少し考えてみました。

IoT普及によるデジタルデータの蓄積

「モノのインターネット」と呼ばれたりするIoTの本質は、アナログデータのデジタルデータへの変換であると考えています。センサーを通じてモノの状態や環境をデジタルに変換することで、データを低コストに取得・保存・発信・分析できるようになり、効率化や自動化を実現します。

インターネットに繋がるデバイスは、今後5年で約3倍になると予測されています(Cisco)。2020年には、産業機器、家庭用電気製品、自動車、家具、衣服、家畜、ペットなど、あらゆるモノが、常時データをどこかのサーバーに送信していることになるでしょう。

Connected Objects
Source: Cisco

 

Harvard Business Schoolのマイケルポーター教授は、IoTデバイスは「Monitoring(モニタリング)」、「Control(コントロール)」、「Optimization(効率化)」、「Autonomy(自動化)」の4段階の進化を経ると提唱しています。(HBR記事

IoTがもたらす効率化と自動化は、人類の生産性を向上させ、生活をより便利にしてくれることは間違いありません。巨大な風車が自動的に発電量を最大にするよう向きを変えることも、Google MapがAndroid Phoneの位置情報を使って渋滞状況を把握するのも、赤ちゃんの体温を24時間自動で管理するのも、すべてIoTがもたらす良い変化でしょう。

データに対する無限の食欲

IoTの普及は、政府や民間企業によるデータに対する食欲を増進させることでしょう。Google、Facebook、Apple、Microsoft、Amazonといった企業は、IoT普及以前から様々な方法でデータを取得しています。

Googleは、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」というミッションのもと、あらゆる情報を取得しています。Gmail、Google Calendar、Google検索履歴、Chrome閲覧履歴、Android Phone 位置・通話・通信履歴、などなど、ユーザーについての何かしらのデータを毎分毎秒取得していると言っても過言ではありません。FacebookやTwitterも同様に、ユーザーの投稿や「いいね!」を蓄積し、ユーザー1人1人の日々の生活や思考を分析することができます。今後のウェラブルデバイスの普及により、民間企業に蓄積されるデータは爆発的に増加するでしょう。

さらに食欲旺盛なのが政府です。スノーデン事件は、アメリカ国家安全保障局(NSA)が他国政府や自国民の通話・通信データを取得していることを暴きました。AT&T, Verizon, Google、Apple、Facebookなど企業のサーバーへもアクセスすることができ、全ての個人情報が筒抜けだったという話もあります(NSAは否定していますが)(Wired記事)。NSAが昨年、ユタ砂漠に建設した巨大なデータセンター(東京ドームのグラウンド10個分以上)は、世界中の通話・通信データをリアルタイムで記録していると言われています(NSA)。

ジョージ・オーウェルの小説「1984年」では、ビッグブラザーと呼ばれる政府が国民の生活を監視・管理し、一切の自由が許されない社会が描かれています。これは1949年に出版されたフィクション小説ですが、その描写は検閲と言論規制が続く中国や、NSAによる監視が続く世界を彷彿させてしまいます。

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未来を1984年にさせないために

 

昨年後半から今年にかけて、データ取得・活用における法規制・業界ルール作りの風潮が強まってきたように感じます。数多くの個人情報漏えい事件では企業が個人データを保管することのリスクを知らしめました。先週のCESでは、連邦取引委員会(FTC)会長が、IoT企業に対して、①セキュリティ対策強化、②取得データを最小限に、③データ活用におけるユーザー許諾の強化、などを指針として掲げました(Techcrunch記事)。今後、このような風潮は強まると予想され、規制化された暁にはスタートアップに対しても徹底が求められるようになるでしょう。

政府による監視については、スノーデン事件やウィキリークスが一石を投じ、その全容が見えたことによって議論の俎上に上がるようになりました。安全保障が関わる問題のため、全ての監視を取り止めるのが良いとは思いませんが、善良な市民の個人データが悪用されることがないよう、その監視プロセスを第三者機関がモニタリングするべきだと思います(IAEAが原子力の利用をモニタリングするように)。

テクロノジーはツールであり、それ自体に善悪はなく、そのツールの活用方法次第です。IoTの実現には、安心してデータ提供できる社会基盤が必要ですし、それが普及の起爆剤になるとも思っています。今後もデータ取得・活用に関する規制化の動きに注目していきたい思います。

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