海外の保険テック(InsurTech)5選!

保険大国と言われている日本ですが、InsurTech(Insurance Tech、保険テック)のスタートアップはまだまだこれから、といった状況です。一方、海外では昨年あたりからInsurTechが立ち上がってきているようで、資金面では2015年には $2.65billionがInsurTechに投資されており、InsurTechに特化したアクセラレーター「Global Insurance Accelerator」もスタートしています。

今回は、中でも個人的に興味深いと思う海外のInsurTechをいくつかピックアップしました。

 

Lemonade (P2P保険)

lemonade

創業:2015年
総調達額:$13M(Sequoia Capital 他)
直近バリューエーション:非公開

一流ファンドであるSequoia Capitalが珍しくシードから投資したことで話題になったLemonadeは、その事業内容がまだ非公開なことでも有名です。しかし、様々なニュースから類推するに、P2P自動車保険を手掛けてくると思われます。

P2P自動車保険は、ヨーロッパではFriendsurance(ドイツ)やGuevara(イギリス)が既に取り組んでいます。モデルとしては、グループメンバーが保険料を出し合ってプールを作り、その中から保険金支払いをし、保険会社の管理手数料として一定額を差し引いた上で、年度末に余った分はメンバーに還元される、というものなります。プールから支払われる保険金が少なければ、メンバーに還元される保険料も多くなるので、安全運転を心がけたり、不要な請求は控えよう、というインセンティブが働きます

もちろん、モラルハラードが懸念されますが、そこはグループメンバーを限定することで回避します。例えば、職場や学校や地域活動など、リアル社会での強い繋がりがあるメンバーでグループを作ることができます。

非常に面白いモデルではありつつも、本当にモラルハザードが避けれるのか、ニッチなグループを集めてどこまでスケールするか、保険会社として十分な手数料が上げらえるのか、これから検証が進むと思われます。

 

Trov (オンデマンド保険、マイクロ保険)

trov

創業:2012年
総調達額:$46M
直近バリュエーション:未公開

Trovはスマホベースのマイクロ保険を提供しています。保険をかけたいモノの品番をあらかじめ登録し、スマホアプリ上で操作するだけで分単位の保険をかけることができます。現在はデジタル端末や家電や楽器やスポーツ用品を対象としているようですが、今後はさらにカテゴリを拡大させていくようです。

Trovは正確には保険会社ではなく代理店として機能しています。保険会社と提携し、保険販売、保険料収納、保険金支払いを担っています。保険会社としては、今までリーチできなかった若年層、保険がかけられることのなかった物品を取込むことができるので、新たなチャネルとして歓迎しているようです。

個人的にはマイクロ保険をいちいち掛けることが面倒な気もするのですが、今後IoTが普及しデバイスの状態が自動的に把握できるようになると、高価なカメラを持って外出している時間帯だけ自動的に保険に入る、スノボを物置から取り出して雪山に行ったときだけ自動的に保険をかける、といった使われ方も想定されます。

また、マイクロ旅行保険を提供するSureもあります。

 

Bought By Many (保険販売)

boughtbymahy

創業:2011年
総調達額:非公開
直近バリュエーション:非公開

保険の販売方法をひっくり返したようなサービス。通常であれば保険会社が作った保険商品をユーザーが選びますが、Bought by Manyではユーザーが自身の欲する保険商品を提案し、それに十分な賛同者が集まるとBought by Manyが保険会社に交渉します。

例えば、パグ犬は他の犬と比べても風邪を引きやすく、また高価であることから盗難(誘拐?)に遭う可能性が高いらしく、通常のペット保険ではカバーされない、もしくは相当な割増保険料を求められるようです。そこで、パグ犬向けの保険商品を求めるユーザーがBought by Manyで集まり、団体として保険会社と交渉することで割安な「パグ犬保険」が提供されるようになったとのこと。

ニッチなカテゴリの多いペット保険に加えて、病気や趣味嗜好を持つ人たちの医療保険としても活用されているそうです。糖尿病患者向けの旅行保険とか子供向けラグビーのスポーツ保険とか。ニッチ領域をグループ化することで、一定の需要プールを作り出し、団体交渉することで保険会社と被保険者でwin-winの関係を築いています。平均して20%の保険料低減に繋がっているようです。

ニッチを集めてどこまでスケールするか疑問が残りますが、保険販売のアプローチを画期的に変革している意味で注目しているサービスです。

 

Oscar (医療保険)

oscar

 

創業:2013年
総調達額:$730M
直近バリュエーション :$2.7bn(2016年2月)

詳しくはこちらのブログ記事をご確認ください。http://www.emreyuasa.com/2016/03/151/

医療保険を提供するスタートアップで、サービスローンチから2年程度で契約者20万人、年間保険料収入 $750M(推計)と急激に伸びています。保険契約者に対して様々な無料サービス(24時間電話診察、ワクチン、オンライン処方、専門医紹介)を提供しており、従来の金融商品の概念を大きく変えています。現在はアメリカの4州のみでの提供ですが、今後各州に拡大する中で5年以内には契約者100万人を目指すと謳っています。

急成長とは言いつつ、業界大手の100分の1以下の規模です。病院との交渉など規模の経済が効く医療保険業界にどのような風穴を開けるのか非常に楽しみにしています。

 

Zenefits(保険販売

zenefits

創業:2013年
総調達額:$580M
直近バリュエーション:$4.5 bn (2015年5月)

表向きは中小企業向けのSaaS型人事ソフトを提供しています。

福利厚生、採用、給料計算、休暇申請などの基本的な機能は無償で提供し、一部の有料機能と外部サービス(保険や給与計算サービス)への手数料でマネタイズしています。特に保険販売手数料は売上の大半を占めているようで、Affordable Care Actの追い風もあり、ビジネスは急拡大。2015年の売上は$100M近くまで伸びていたと聞きます。

組織内紛による共同創業者の離脱や、戦略見直しによる営業チームの一斉解雇などいろいろとニュースに絶えないスタートアップではありますが、最も注目されている”保険”テックの1つです。

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他にも、保険契約内容を分析するRiskGenius、ブロックチェーンを使った保険詐欺対策のEverledger、モバイルベースの保険管理・申込アプリのKnip など様々なカテゴリのInsurTechがあります。

保険は規制業界ですし、巨額の資本金が必要ですので、保険会社はスタートアップにはハードルが高いのも事実です。また、業界の方とお話していると官公庁の目が厳しく、なかなか新しいことに取り組めないといった側面もあるようです。

一方で、既存の保険会社と組んで、新たなチャネルの掘り起こし、精緻なリスク審査など一部機能の切り出し・最適化であれば、スタートアップの参入機会は十分にあると考えています。例えば日本でもSmartDriveが、AXA損保と提携してテレマティクス(走行データ)に基づく自動車保険を提供していますが、これも一律で高保険料を強いられている若年層に対して精緻なリスク審査をすることで、新たな営業機会を作っていると思います(あくまで推測ですが…)。

世界のInsurTechを引き続きウォッチしつつ、日本での応用可能性や日本特有の機会がないか考えていきたいと思います。

医療保険を変革するOscarの躍進

サービスローンチ後2年程度のスタートアップ「Oscar」がバリュエーション $2.7bnで$400Mの大型調達を実行しました。日本では未だ馴染みのない企業かもしれませんが、医療保険の分野で非常に面白い挑戦をしているのでご紹介したいと思います。

Oscarとは?

Oscar(https://www.hioscar.com/)は医療保険を提供するスタートアップです。

ただ、従来の医療保険とは異なり、ただ保険を提供するだけでなく、契約者の健康維持に積極関与することで、全体の医療費(と医療保険料)を下げることを目指しています。

例えば、Oscarの契約者であれば、医師との24時間電話診察、往診、ジェネリック医薬品の処方、一般的なワクチンや検査などがすべて無料になります。また、契約者にフィットネスモニター(Misfit Flash)を無料配布し、フィットネス状況に応じて報奨金を提供しています(最大$20/月)。病気予防や早期診断・治療によって深刻な病気や手術を減らそうという施策です。

ユーザーエクスペリエンス(UX)も優れており、医療保険に申し込むための全ての手続きがスマホで完結でき、過去の往診履歴や処方歴も一括管理することもできます。症状を入力するだけで近隣の専門医を紹介してくれるサービスもあり、「健康のことで不安になったらとりあえずOscarを開いてみる」という立ち位置を作り出しています。

https://www.hioscar.com/

Oscarの躍進

そんなOscarは、2014年のサービスローンチ以来(創業は2012年)躍進を続けています。

NY州から始まり 、NJ州、CA州、TX州と徐々に広げており、契約者数も約16,000人(2014年)→40,000人(2015年)→145,000人(2016年)と急成長しています。平均保険料は$5000/年だそうで、2016年の保険料収入は約$750Mと推計されます。

Oscarの急成長は、従来のアメリカの医療保険に対する不満の表れともいえます。国民皆保険が存在しないアメリカでは医療保険は大きな問題で、医療保険が高すぎて加入できない人が4800万人いたり(2012年)、個人破産の6割のケースが医療費によるものと言われたりしています。加えて、保険料、免責額、自己負担額、自己負担最高額が絡み合った難解なプランや、医療費の支払い申請が異常に複雑だったりして、「医療保険は分かりにくくて高額」という問題がありました。それを分かりやすく、簡単に、お手頃価格で提供するのがOscarです。

また、制度変更の機も狙ったのが成功要因でもあります。2010年にオバマ大統領がAffordable Care Act(通称オバマケア)を成立させ、2014年から特定の条件を満たす場合は個人医療保険に補助金を提供開始したことで、今まで医療保険に加入していなかった層(ブルーオーシャン)を一気に取込むことができました

今後、Oscarは毎年3-4州ずつ拡大し続ける予定で、5年以内に契約者100万人を目指すとしています。

創業者は金融・医療業界のイーロン・マスク?!

Oscarの創業者は3人いますが、特にJoshua Kushnerはすでにカリスマ的存在になっています。

Joshuaの父は不動産王(推定資産$500M)であり、Joshuaが幼い時から工事現場や交渉現場に連れて行き、ビジネスマインドを徹底的に叩き込んだと言われています。帝王学のおかげか、Joshuaはハーバード大学在学中(2007年)にブラジルでソーシャルネットワーキングサイトVostuを起業、ピボットを経た後に同社はをブラジル最大のソーシャルゲーム会社(4000万人利用)に育て上げました。

2009年にはThrive Capital(ベンチャーキャピタル)を創業し、2012年にSequoia、Greylock、 BenchmarkといったトップティアVCと競りながらInstagramのSeries Bラウンド(時価総額 $500M)にゴリ押しで入り込み、その3日後にはFacebookに$1bnで売却するという奇跡のプレーを繰り広げます。

そして、Thrive Capitalのマネージングパートナーに就きながら、2012年にOscarを創業しました。ちなみに、2014年にはCadreという商業不動産売買プラットフォームのスタートアップも共同創業し、こちらも今年1月に$50M調達しています。

裕福な家庭で育ったお坊っちゃんかと思いきや、ハードワークと謙虚な性格を持ち合わせているらしく、オフィスで寝泊まりをすることも多いのだとか。また、Instagramに出資した金額を3日で倍にした直後も、”Heads Down”, “Stay Focused”, “Ignore the Noise”と自分のデスクに貼って、舞い上がることなく仕事に取り掛かったようです。

ちなみに、ここまで経験豊富なJoshuaは1985年生まれの30歳です。

Source: NYTimes

Oscarの今後

そんなスーパースターが経営するOscarは、Peter Thiel、Khosla Ventures、Google Capital、 General Catalyst Partners、 Founders Fund、Fidelityなどの有名VC/エンジェルに支えられ、累計$700M以上を調達しながら爆進中です。

一方、規模の経済が活かせず、病院に対する交渉力が無いため、コスト面で不利だったり、初期ユーザーの期待値の乖離からの悪評判も多々あり、必ずしも順風満帆とはいえない状況です。

特に、コスト面の不利さは短期にはどうにもできない部分もあり、現在は提携病院を絞ってコストを下げてなんとか競争力を保とうとしています。また、無料の付随サービス(24時間電話診察、ジェネリック医薬品、検査)や優れた情報管理システムを提供することで、価格以外の優位性を築こうとしています。今回の$400Mの調達資金でどこまで効率的に規模拡大できるか注目です。

将来的には、テクノロジー企業としてデータを活用した個人の健康管理(ならびに医療費・保険料の削減)に踏み込んでくれることを期待しています。

日本は国民皆保険制度があるので、同様のビジネスモデルは成り立たないでしょうが、保険という従来のプロダクトカテゴリを超えて、顧客目線でのトータルソリューションの設計、テクノロジーを駆使したユーザーエクスペリエンスの向上は、日本の金融・医療業界を変革する上でも参考になる部分は多いかと思います。

日本版Fintech(フィンテック)業界マップ公開

<自身のFacebookへの投稿から転載>
https://www.facebook.com/eyuasa/posts/10153891836849846

週末に探していてネットで見つからなかったので作ってみました!
抜け漏れ・誤記ございましたらすみません。。。(ご指摘いただけると嬉しいです)

こうやって改めてみると、日本のフィンテックはまだまだ成長余地がたくさんあります。今後の規制緩和や既存金融機関との協業により、オンライン融資、投資・資産運用、保険、セキュリティなどの領域は今後さらに盛り上がってくることに期待しています。このあたりについては、海外先行事例も踏まえながら今後一つずつ掘り下げていきたいと思います。

日本版Fintech(フィンテック)ベンチャー業界マップ_20160112

なお、PDF版(各企業サイトへのリンク付き)はこちらからどうぞ。
dropbox→ https://goo.gl/4wmj9z

2016/1/17追記
こちら公開後に複数の方から抜け漏れを指摘いただきました(ありがとうございます!)。今後定期的に更新してアップしていきます。