極秘スタートアップMagic Leapとはどんな会社なのか?

MagicLeapという会社をご存知でしょうか?アメリカのフロリダに本社を構えるMagic Leapは、2014年10月にGoogle、KPCB, A16Zといった著名投資家から$542MM(約650億円)を調達したと発表しました1。 さらに、GoogleからはAndroidとChromeの責任者である大物Sundar Pichai氏が取締役として送り込まれるという力の入れ具合。それでも、その事業内容は全くと言っていいほど公表されていません

最近、そんなMagic Leapの実態が分かるニュースが少しずつ出てきました。今回は、Magic Leapの分かっている限りの実態と、今後について妄想を膨らませてみたいと思います。

少しずつ見えてきたベールの向こう側

Magic Leapは、一言でいえば仮想現実(Augmented Reality: AR)技術のスタートアップですが、彼らは全く新しいレベルのARを目指していると謳っており、それをCinematic Realityと呼んでいます。Google Glassのようなウェラブルデバイス(おそらくメガネ型)を通じて、現実社会の中にデジタル情報が付加されて見えるような技術を開発していると言われています。

その技術は、ウェラブルデバイスからARの光を網膜に直接照射して、現実社会からの光とブレンドして処理させることで、現実社会とARを全く違和感なく同時に体験できるようになる、というSFチックなモノのようです2。網膜に直接照射すると聞くと非常に恐ろしい気がしますが、MagicLeap創業者CEOのRony Abovitz氏は、整形外科用ロボットベンチャーMAKO Surgicalを創業し、医療機器大手Strykerに$1.65bnで売却した経験がある3ので、安全性やFDA(アメリカ食品医薬品局)からの認可取得も含めてしっかり考えているのでしょう。

そのCinematic Realityを体験した人は少ないのですが、MIT Technology Reviewの記者によると、「目の前に青いモンスターが現れて飛び跳ねている。それが現実ではないと言い聞かせないと信じ込んでしまう。モンスターが近づいてくると皮膚の細かなテクスチャーまでリアルだし、腕の上を歩かれるとくすぐったかった」だそうです4。これが本当だとしたら、Google Glassとは全く違う次元のARなようです。

さらに面白いのは、ウェラブルデバイスにフロントカメラを付けることで、インプットデバイスにもなり得るということです。つまり、目の前で指を動かすことで仮想現実上のページを捲ったり、積み木を組み立てることで仮想現実上で3Dデータが作れるようになったりします。

CEO Abovitz氏によると、2015年後半には開発者向けプロトタイプを公開するようで5、仮想現実が現実になる日は案外近いのかもしれません。

Magic Leapの何が凄いのか?

Magic Leapをはじめとする ARは、デジタル世界をより身近なものにする転換点になると期待されています。

コンピューターの進化の歴史を辿ると、それはコンピューターをどんどん身近にさせるものでした。大きさは、体育館サイズからデスクトップサイズ、さらには手のひらサイズにまで縮小されてきました。価格も研究所のみが購入できたのが、今では何十億人が携帯電話を持つようになりました。一方で、未だに画面に縛られているのが現状です。職場では多くの人が小さな画面と向かい合い、街や電車では大半の人が俯きながら携帯画面に没頭しています。小型化・軽量化を極めたコンピューターの進化の次のステップは、画面から人類を解放することだと思います。

ARは、現実社会にデジタル情報を付加することで、人間の日常行動の中にデジタル情報を届けてくれるようになります。歩きながら周辺店舗情報が表示されたり、遠方の人が同じ部屋に座っているように見えたり、モノをみるだけでその商品情報や購入ボタンが表示されるようになります。それは単に現実を「拡張」するのみならず、現実とデジタル情報の融合を図ることによって、人間がより本来の人間らしい行動できるようになることを示していると思います。

これは、computer-centricな世界感からhuman-centricな世界感へのシフトを加速させる力を持っていると思います。人間が多くの指示を出さなくても(場合によっては一切の指示を出さなくても)、コンピューターが予測して必要な情報を提示するようになります。すでにGoogleは、Google Calendarの予定と現在地と混雑状況をもとに、次のアポへ出発すべき時間に自動的にアラートを出してくれますし、Facebookは自分の過去の行動をもとに最適なフィードを表示してくれます。ARの到来によって人類が画面から解放されることで、人間が欲する情報が向こうからやってくる世界が作れると予測されます

Source: ARLab.com
Source: ARLab.com

Oculus Riftと何が違うのか?

ARと混合されがちな仮想現実(Virtual Reality:VR)ですが、実はARとは似て非なるものだと思います。VRでは、Oculus Rift(Facebookが2014年に$2bnで買収)やSamsung Gearに代表される没入型デバイスが有名であり、これらのデバイスを使ってユーザーは完全に仮想現実の世界に入り込みます。映画67、旅行、音楽8、エロなどの世界で次々とコンテンツが作られており、数年後には「ちょっとローマに行ってくるわ!」と言ってVRデバイスを装着することも当たり前になるかもしれません。

VRが提供する仮想現実は超ハイクオリティーである一方、ユーザーはそれを意識的に体験しなければなりません。没入型ヘッドマウントディスプレイを付けたまま街を歩くことはできませんし、現実世界の人と交流することもできません。VRが素晴らしい新しい世界を提供するものだとしたら、ARは今の世界を素晴らしいものにするものだと言えます。どちらが優れているという話ではなく、使われ方や提供する価値という意味で、ARとVRは全く異なるものだと言えます。

注目を浴びてきたAR/VR

正直、MagicLeapがどこまでPR上手なだけなのか、噂されるようなテクロノジーを本当に有しているのか、実際の製品が公開されるまでよく分かりません。しかし、ARがデジタル世界をより身近にさせることは間違いないですし、その技術が完成されたときにはスマホからウェアラブルARデバイスへのシフトが起こるのも間違いないと思います。画面から解放された人類はより人間性を取り戻し、画面に縛られていた過去の人達のことを憐れむかもしれません。そして、その大きな転換点となる技術の最先端を牽引し、入り口となるハードウェアを抑えることに、GoogleやFacebookが多額の資金を投じているのも納得できます。

2014年3月にはソニーが独自のVRデバイス「Project Morpheus」を発表したり9、2015年1月にはMicrosoftが「HoloLens」を発表したり10、最近はAR/VR関連のニュースが目立つようになってきました。これからも面白い進展や新情報があれば追いかけて行きたいと思います。

(AR/VRについて勉強中であり、もし詳しい方・ご興味ある方がいらしたら、いろいろ教えてください~!)

Source: www.magicleap.com
Source: www.magicleap.com

Google Glassは本当に失敗だったのか?

Google Glassの販売停止の発表は、多くの驚きや疑問の声を生みました。多くのメディアは「Google Glassは失敗した」と報じ、ForbesはGoogle Glass追悼文を掲載しました。今回のGoogle Glass販売停止と今後の展開について、私なりの考えを整理してみたいと思います。

そもそもGoogle Glassは失敗ではない

私は今回の販売停止はGoogle Glassの失敗を意味しているわけではないと思っています。むしろ、「お役目終了」といったところではないでしょうか?

2012年のGoogle I/OでSergei BrinがGoogle Glassを披露してから、2013年4月のExplorer Programの開始、さらには2014年5月に一般販売開始に至るまで、Google Glassはウェアラブルデバイスの代表格ともいえる存在を担ってきました。

一方で、一般消費者から「かっこ悪い」「実用性がない」と不満の声も多く出たり、Google Glass用のアプリを作るデベロッパーが開発を止めたりして、滑り出しに非常に苦労していたように見受けられました。マス層への普及という観点からは確かに「失敗」だったのかもしれません。

しかし私は、2年間に及ぶGoogle Glass販売の目的は、壮大なベータテストだったと捉えています。これは1台US$1500という決してマス向けではない価格設定を見ても明らかです。そして、その観点では非常に成功したプログラムでした。ベータ版のプロダクトで多くの注目を集め、数十万人といわれるテスターを募集し、さらにはテスターからおカネをもらうというオープン型のベータテストは大成功と言えるのではないでしょうか。

そして、Explorer Program開始からの2年間で蓄積された数多くのフィードバックは、iPodの生み親であり、新たにGoogle Glass事業をリードすることになったTony Fadell氏(現Nest CEO、$3.2 billionでGoogleが買収)の元で活かされ、近い将来に新商品 Google Glass 2.0が発表されるのではないかと思います。早ければ今年6月のGoogle I/Oにて発表されることを期待しています。

Google Glass 1.0からレッスン

では、2年間に及ぶGoogle GlassのベータテストでGoogleは何を学んだのでしょうか?私自身も1週間Google Glassとともに生活した経験から、レッスンと思われるものを挙げてみました。今となっては当たり前に聞こえるものもあるかもしれませんが、2年前に完璧に予見することは難しかったと思います。

ウェラブルデバイスはファッション Google Glassはいかにもギークが好みそうなデザインでとにかくカッコ悪いものでした。私もボストンで着用していましたが、街を歩くのすら恥ずかしいくらいで、それを常時着用するのは相当な心理的ハードルがありました。テクノロジー業界では見た目よりスペックや実用性を重要視してしまいがちですが、ウェアラブルデバイスはそれ自体が装飾品になるようなデザイン性が求められていると思います。スマートウォッチにおいても、全く同じ経路を辿っています。

キラーアプリは必須 Google Glassはとにかく実用性が薄いものでした。メールを読むには画面が小さすぎて、通話をするには聞き取りにくい。写真や動画を撮ることにおいては携帯電話より便利でしたが、それは比較論の域を出ていませんでした。Emailがインターネットのキラーアプリになったように、Google Glassを使うことによる圧倒的な価値を提供できないと普及は難しいと思います。

洗練されたUI/UX Google Glassでのメニュー選択するには、OK Glassと呼びだしてから、ボイスコマンドで起動させるか、首を上下に振ってスクロールしながら選択する必要がありました。これは傍目に見ると完全に変質者です。予測技術を使って自動的に起動させたり、目の動きでスクロールするなど、もうちょっと人前や静かな場所でも使いやすいUI/UXが必要でしょう。

深刻なプライバシー問題 他人の前で許可なくGoogle Glassを着用することが非難され、勝手に撮影されることを恐れた人々から”GLASShole”という言葉を生み出されました。Google Glassを使ったハンズフリー撮影・録画はキラーアプリとなり得るので、カメラ機能を無くすことはあり得ないと思いますが、よりプライバシーに配慮した設計が求めらています。(次バージョンでは、撮影中に赤いライトが光るようになる、というもあります)

価格にシビア $1500は高すぎました。もちろんベータテストなのでそこまで安くする必要が無かっただけだと思いますが、Fitbit($50-100)やスマートウォッチ($100-300)など、マス普及を狙うにはもっと価格を下げる必要がありそうです。今年のCESでは、中国メーカーから$300程度のGoogle Glass類似品が展示されていたようなので(Cool Glass ONE)、コスト構造的には十分可能だと思います。

Google Glass 2.0に向けて

Google Glass 2.0のローンチがいつになるのか分かりませんが、おそらく先ずは商業利用から攻めてくると思います。これはIoT全体の傾向ですが、光熱費を削減する(Nest)、自動車保険を削減する(MetroMile)、ホームセキュリティを安価に導入する(QuirkyDropcam)など経済的メリットを訴求しないと、「便利」だけでは訴求力が弱いようです。

Google Glass 1.0は、マス向けは普及しなかったものの、病院で医師の診察に使われたり(Augmedix)、警察による顔認識技術として使われたり(Dubai Police)、倉庫の商品管理に使われたり(Active Ants)、一定のビジネスユースにおいては実用性が認められました。ベータテストで特定した領域について、Google Glass 2.0は本格展開してくると思います。

また、今後興味深いのがAR(拡張現実)の組み込みです。Google Glassを通じて見ることで、目の前にある現実にデジタル情報を被せることができるようになるはずです。外国語の看板を翻訳して表示させたり、道を眺めると地図と経路が表示されたり、モノを眺めるとネット上の価格や類似商品が表示されたり、目の前にいる人のプロフィールを表示させたり。GoogleがAR/VRの先端技術を持つMagic LeapにUS$542M投資したのも、Google Glassへの応用を考えているのだと思います。前述のキラーアプリもこの辺から出てきそうな予感がします。

もともとGoogleはデータ企業であり、ハードウェア企業ではないことから、Google GlassについてもOSや生態系を狙うための先兵隊という位置付けだと思います。最終的には携帯電話と同様にAndroid OSをばら撒いて、ハードは多数の企業に作ってもらうことで、生態系の覇権を握ろうとしているのではないでしょうか。Google GlassはGoogle Xを「卒業」して、独立した事業部になるという報道もありますが、iPodとNestという新しいプロダクトを成功させたTony Fadellが次にGoogle Glassをどのような形で進化させるのか大変楽しみです。

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